遺棄船員のための金銭上の保証の支払範囲と遺棄の三つの経路(MLC基準A2.5.2)
2026-08-01

外国の港に船がつながれたまま二か月が過ぎたとします。賃金が入らず、船舶所有者と連絡がつかず、 食料と清水が減っていきます。この状況が条約のいう遺棄なのか、遺棄であれば誰が何を支払うのかが、 船員にとっては目の前の問いです。
MLC, 2006の規則2.5第2項は、旗国が自国を旗国とする船舶に金銭上の保証を備えさせることを求めて います。その保証がどう働くかは基準A2.5.2が定めます。
条文は一覧を二つ使います。遺棄かどうかを分ける一覧と、保証が実際に支払う一覧です。二つは 重なりますが同じではありません。
遺棄は三つに分かれ、一つ当たれば成立します
- For the purposes of this Standard, a seafarer shall be deemed to have been abandoned where, in violation of the requirements of this Convention or the terms of the seafarers’ employment agreement, the shipowner: (a) fails to cover the cost of the seafarer’s repatriation; or (b) has left the seafarer without the necessary maintenance and support; or (c) has otherwise unilaterally severed their ties with the seafarer including failure to pay contractual wages for a period of at least two months.
三つの経路がorでつながれています。送還の費用を負担しなかったか、必要な維持及び支援なしに
置き去りにしたか、一方的に関係を断ったか。三つのうち一つで遺棄です。
三つ目を二か月に縮めて読むと条文が狭くなります。(c)が定めるのは一方的に関係を断った場合で
あり、二か月以上の契約賃金の未払いはその中に入る一例として(including)書かれています。
二か月に満たなくても(a)や(b)で遺棄は成立します。
冒頭にもう一つ条件が付きます。条約の要件または船員の雇用契約の条件に違反した状態でなければ なりません。契約どおりに支払い、送還を手配している船は三つのどれにも入りません。
支援が絶たれたかは五つの項目で見ます
- For the purposes of paragraph 2(b) of this Standard, necessary maintenance and support of seafarers shall include: adequate food, accommodation, drinking water supplies, essential fuel for survival on board the ship and necessary medical care.
(b)のnecessary maintenance and supportは判断語のように読めますが、条文が一覧を付けて
います。十分な食料、宿泊設備、飲料水、船内で生存するために必要な燃料、必要な医療です。ここで
いう燃料は航海を続けるための燃料ではなく、船の中で生きているための燃料です。
この一覧は遺棄かどうかを分けるために使います。保証が支払うものは後で別に出てきます。
保証が支払う賃金は四か月で切れます
(a) outstanding wages and other entitlements due from the shipowner to the seafarer under their employment agreement, the relevant collective bargaining agreement or the national law of the flag State, limited to four months of any such outstanding wages and four months of any such outstanding entitlements;
二か月と四か月は別の仕事をします。二か月は(c)で判定を開く敷居であり、四か月は保証が支払う 賃金の上限です。
上限は二つに分かれています。未払賃金の四か月分と、その他の未払給付の四か月分です。二つ合わせ て四か月ではありません。
何が未払賃金かは三か所から来ます。船員の雇用契約、該当する団体交渉の合意、旗国の国内法です。 どれで計算するかによって金額が変わります。
賃金が六か月遅れているなら、四か月分は保証から出て、残りは船舶所有者への請求として残ります。 第14項は、この基準が他の権利や救済手段を排除しないと書いています。
支払う一覧は判定の一覧より広く、家に着くまで続きます
(c) the essential needs of the seafarer including such items as: adequate food, clothing where necessary, accommodation, drinking water supplies, essential fuel for survival on board the ship, necessary medical care and any other reasonable costs or charges from the act or omission constituting the abandonment until the seafarer’s arrival at home.
| 項目 | 第5項:維持及び支援(判定) | 第9項 (c):基本的な必要(支払) |
|---|---|---|
| 食料・宿泊設備・飲料水・生存の燃料・医療 | ○ | ○ |
| 必要な場合の衣類 | なし | ○ |
| 遺棄から生じたその他の合理的な費用 | なし | ○ |
| 家に着くまでという終点 | なし | ○ |
支払う一覧には終点が付いています。遺棄を構成する作為または不作為があった時から、船員が家に 着くまでです。判定の一覧に期間はありません。その時点で船内で何が絶たれているかだけを見ます。 だから遺棄が成立した日と保証が支払を止める日は別の出来事です。
証書は積むだけで終わらず、船員が見える場所に掲示します
- Each Member shall require that ships that fly its flag, and to which paragraph 1 or 2 of Regulation 5.1.3 applies, carry on board a certificate or other documentary evidence of financial security issued by the financial security provider. A copy shall be posted in a conspicuous place on board where it is available to the seafarers. Where more than one financial security provider provides cover, the document provided by each provider shall be carried on board.
一つの文に要求が三つあります。金銭上の保証の提供者が発行した証書またはこれに準ずる書面の
証拠を積みます。写しは船員が見える目立つ場所に(a conspicuous place)掲示します。提供者が
二者以上なら、それぞれの書類をすべて積みます。
対象は規則5.1.3第1項または第2項が適用される船舶です。証書に記載する内容は附属書A2-Iが定め、 英語で書くか英語の訳文を添えます。
保証は有効期間が終わる前に勝手に切れることはありません。提供者が旗国の権限のある機関に少なく とも30日前に通知した場合にだけ、それより早く終わります。
確認しておくこと
上の引用はMLC, 2006統合版(2022年改正を含む)の印刷37ページと38ページから取りました。 基準A2.5.2は強制規定です。
保証の形態は、加盟国が関係する船舶所有者団体および船員団体と協議して定めます。社会保障制度、 保険、国家基金、その他の類似の仕組みのいずれもあり得ます。だから請求をどこに出すのか、どんな 証拠が要るのかは船ごとに分かれます。その船の答えは船内に掲示された証書と旗国の法令にあります。
遺棄の判定も保証への請求も、誰にいつからいくら支払われていないかから始まります。Bellbookは給与の計算内訳を項目別に残し、その船員がいつからその船にいたのかを乗下船の記録で併せて見ます。
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