船員供給国が負う責任の範囲と、外国人船員を使う船社が確かめること(MLC規則5.3)
2026-08-06

紹介機関を通して外国人船員を受け入れ、船に乗せるとします。船の旗国とその船員たちの国籍国が 違います。船上の労働条件と生活条件は旗国が見ます。では船員を送り出した国は何を見るのか。
MLC, 2006の規則5.3がこの問いに答えます。見出しが労働力の供給に関する責任であり、その責任は その国の籍を持つ船だけに掛かるのではありません。この記事は、旗国でない国が負う責任がどこまで かを見ます。
規則5.3は旗国の責任を削らず、その隣にもう一つを置きます
Purpose: To ensure that each Member implements its responsibilities under this Convention as pertaining to seafarer recruitment and placement and the social protection of its seafarers
- Without prejudice to the principle of each Member’s responsibility for the working and living conditions of seafarers on ships that fly its flag, the Member also has a responsibility to ensure the implementation of the requirements of this Convention regarding the recruitment and placement of seafarers as well as the social security protection of seafarers that are its nationals or are resident or are otherwise domiciled in its territory, to the extent that such responsibility is provided for in this Convention.
文がWithout prejudice toで開きます。旗国の責任の原則には触れないという意味です。その次に
alsoが来ます。旗国の責任に代わるのではなく、その隣にもう一つが付きます。
付く責任の対象は二つです。船員の募集・職業紹介、そして社会保障の保護です。休息時間や居住設備 のような船上の条件はここにありません。
そして文の末尾に限界が付いています。
to the extent that such responsibility is provided for in this Conventionです。条約がその
責任を定めた範囲までです。船員を送り出した国がその船の全部を負うという意味ではありません。
基準A5.3はその国の領域に設立された紹介機関を執行の対象にします
- Each Member shall enforce the requirements of this Convention applicable to the operation and practice of seafarer recruitment and placement services established on its territory through a system of inspection and monitoring and legal proceedings for breaches of licensing and other operational requirements provided for in Standard A1.4.
ここで掛かり先が一度変わります。人ではなく領域です。established on its territory、つまり
その国の領域に設立された紹介機関が対象です。その紹介機関がどの国の船へ船員を送るかは、この文
にありません。
執行の中身も分けて書かれています。点検と監視の制度、そして違反に対する法的手続です。違反の 対象は免許の要件とその他の運営上の要件であり、その要件を書いた場所が基準A1.4です。だから 基準A5.3は新しい実体規定を作りません。すでに基準A1.4にある要件を、供給する国に実際に執行させる 条項です。
二つの条文を重ねると、旗国と供給国が別の掛かり先を使っていることが見えます。
| 区分 | 旗国 | 船員供給国 |
|---|---|---|
| 責任が掛かる先 | その国の旗を掲げる船 | その領域に設立された紹介機関、そしてその国の国民・居住者 |
| 責任の対象 | 船上の労働条件と生活条件 | 募集・職業紹介と社会保障 |
| 船が変わると | 責任を負う国が変わります | そのまま残ります |
旗国の責任はships that fly its flagに掛かるので船に付いて動きます。船員が別の旗国の船へ移れ
ば見る国が変わります。供給国の責任は人と紹介機関に掛かるので、船が変わってもそのまま残ります。
制度を作ったという事実だけでは報告が埋まりません
- Each Member shall establish an effective inspection and monitoring system for enforcing its labour-supplying responsibilities under this Convention.
- Information about the system referred to in paragraph 3 of this Regulation, including the method used for assessing its effectiveness, shall be included in the Member’s reports pursuant to article 22 of the Constitution.
第3項が求めるものは制度であり、そこに付いた修飾語がeffectiveです。第4項はその制度を条約の
履行報告に入れさせます。ところが報告の対象は制度だけではありません。
the method used for assessing its effectivenessが一緒に入ります。
二つの項を重ねると構造が現れます。免許制度が法令にあるという事実だけでは第4項を埋められませ ん。その制度が実際に効いているかを何で測るのかまで書く必要があります。供給国の責任が、一度 作れば終わる書類ではなく、回り続ける制度として設計されているという意味です。
指針B5.3は船舶所有者がどこにいてもと書きます
- Private seafarer recruitment and placement services established in the Member’s territory and securing the services of a seafarer for a shipowner, wherever located, should be required to assume obligations to ensure the proper fulfilment by shipowners of the terms of their employment agreements concluded with seafarers.
wherever locatedが船舶所有者に付きます。紹介機関がその国の領域にあれば、船舶所有者がどの国
にいても関係ないということです。供給国の責任が自国籍船に閉じ込められていないことが、この一語
に最もはっきり出ています。
中身も一歩進みます。紹介機関に対し、船舶所有者が船員と結んだ雇用契約の条件をきちんと履行する よう担保する義務を負わせよと言います。船員を送り出して手を離す構造を狙った文です。
ただし述語を見る必要があります。基準A5.3はshall enforceと書き、指針B5.3は
should be requiredと書きます。前は基準で、後ろは指針です。だからこの義務が実際に紹介機関に
付いているかは、その国が指針をどう取り入れたかに掛かります。
船社がこの責任と出会う場所は船の証書の側です
供給国の監督制度は船社には遠い話に見えます。ところが条約はその制度を、船の証書の側に一項目と して植えてあります。
附属書A5-Iは、旗国が船に証書を発給する前に点検し承認すべき労働条件と生活条件を列挙します。
その一覧に
Use of any licensed or certified or regulated private recruitment and placement serviceが
入っています。附属書A5-IIIにも同じ項目があります。寄港国の点検を行う権限を与えられた職員が
詳細点検を行う一般的な領域の一覧です。
海上労働遵守措置認定書(DMLC)の第一部の列挙で、この項目が指す条文が規則1.4です。そして 第二部は、同じ項目について、船舶所有者が検査と検査の間も適合を保つために用意した措置を書く欄 です。
ここで線が引かれます。紹介機関に免許を与えて監督するのは供給国の仕事です。その船が使った紹介 機関が免許を受けたか、認証を受けたか、規制を受ける先かを確かめ、その確認を船に残すのは船社の 仕事です。職員が船で見るのは供給国の監督体系ではなく、この船が使った経路がその要件を満たした という証拠です。
確認しておくこと
上の引用はMLC, 2006統合版(2022年改正を含む)の規則5.3と基準A5.3、指針B5.3、そして附属書A5-Iと A5-IIIから取りました。規則と基準は強制規定ですが、紹介機関の免許制度の形と点検の周期、そして 社会保障をどの部門まで及ぼすかは、その国の法令が埋めます。指針B5.3は基準ではないので、その国 がどう取り入れたかを別に見る必要があります。その船員の国籍国と居住国が条約の締約国か、その 紹介機関がどの国の領域に設立されているか、そしてその国が与えた免許や認証を船に残せるかが、 実際の判断の出発点です。
どの国がその船員について責任を負うかは、国籍と居住地で分かれます。Bellbookは人事記録カードに住所と経歴を置き、証書の有効期限と乗下船の記録を同じ人の下にまとめるので、紹介機関を経て来た船員でも確かめることが一か所に集まります。
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