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船員・労務

船員の最長乗船期間と送還の権利が生じる時点

2026-07-04

船員をどれだけ長く船に置けるかは、契約書に書かれた期間で決まるわけではありません。MLC, 2006 は 契約期間の上限を定めない代わりに、乗船期間の上限を旗国が定めることを求めています。この二つ が別の概念であるという点から、計算が食い違い始めます。

この記事では MLC, 2006 の基準 A2.5.1 と基準 A2.4 の文言を並べ、乗船期間の上限がどこから出て くるのか、送還の権利がいつ生じるのかを整理します。

12 か月は契約期間ではなく乗船期間の上限です

MLC 基準 A2.5.1 第 2 項は、旗国が法令または労働協約で定めておくべき事項を列挙しています。その うち (b) が乗船期間です。

(b) the maximum duration of service periods on board following which a seafarer is entitled to repatriation – such periods to be less than 12 months; and

文言どおりに読むと二つのことが出てきます。第一に、この期間が過ぎると船員に送還の権利が 生じます。 会社が送還を承認する構造ではなく、権利が発生する構造です。第二に、旗国が定める 上限は less than 12 months、すなわち 12 か月未満でなければなりません。12 か月が上限では ありません。

契約期間はこの上限とは別です。ILO は Compendium of Maritime Labour Instruments(第 5 次 改訂版)の問答 C2.1.j で、MLC が雇用契約の期間の上限を定めておらず、基準 A2.1 は期間を定めない 契約も想定していると説明しています。同じ問答が、契約の期間と連続乗船期間は別の概念であると 明記しています。

ですから 6 か月の契約を延長して使おうと、期間を定めない契約を使おうと、乗船期間の上限は別に 守らなければなりません。契約書だけを見ていては、この上限にいつ達するのかがわかりません。

11 か月は二つの規定を重ねた結果です

乗船期間の上限を 12 か月未満に置いたからといって、11 か月 29 日まで乗せられるわけではあり ません。有給休暇の規定が同時に効きます。

  1. Subject to any collective agreement or laws or regulations providing for an appropriate method of calculation that takes account of the special needs of seafarers in this respect, the annual leave with pay entitlement shall be calculated on the basis of a minimum of 2.5 calendar days per month of employment.

基準 A2.4 第 2 項の計算基準は、雇用 1 か月につき最低 2.5 暦日です。12 か月なら 30 日です。船に 12 か月続けて置くと、その期間に発生した有給休暇を使う場所がありません。

ILO は同じ問答で、二つの規定の相互作用が連続乗船期間に制限を生み、その期間は原則として 11 か月になると説明しています。これは条文の数字ではなく、条文二つを重ねて読んだ ILO の解釈です。 条文に書かれた数字は less than 12 months2.5 calendar days per month の二つだけです。

実務上の違いはここから生じます。乗船期間を数える基準が契約の回数ではなく連続乗船だという点 です。ILO は、連続して複数の契約を結んで 12 か月を超えること自体は可能だが、連続乗船期間の 制限はそのまま適用されると説明しています。契約を新たに結ぶことで乗船期間が初期化されるわけでは ありません。

有給休暇は放棄の合意でなくすことができません

乗船をさらに続けるために休暇を放棄する合意を取る方法は閉じられています。

基準 A2.4 第 3 項は、この基準が定める最低有給休暇を放棄するいかなる合意も禁止すると書いて います。ただし同じ項に例外があります。権限のある機関が定める場合です。つまり放棄が開く通路は、 会社と船員の間の合意ではなく機関の決定です。

ですから乗船期間が上限に近づいたときに確認することは二つです。その旗国が定めた乗船期間の上限が 何か月なのか、そして有給休暇の放棄を認める決定があるのかです。どちらも会社が決める値では ありません。

送還の権利は期間のほかに三つの事由でも生じます

乗船期間の上限は、送還の権利が生じる複数の事由のうちの一つです。基準 A2.5.1 第 1 項は三つを 別に挙げています。

  • 船員が海外にいる間に船員雇用契約が満了した場合
  • 契約が終了した場合。船主が終了した場合と、船員が正当な理由で終了した場合の両方
  • 船員が契約上の職務をこれ以上遂行できない、またはその状況で遂行を期待できない場合

三つめの事由は期間と無関係です。負傷や疾病で職務を遂行できなくなれば、乗船期間がどれだけ残って いるかにかかわらず送還の権利が生じます。ですから送還の判断を交代計画表の中だけで行うと、この 経路を見落とします。

送還の費用を船員に負わせることはできません

基準 A2.5.1 第 3 項は二つを禁止します。船主は雇用の開始時に船員へ送還費用の前払いを求めることが できず、船員の賃金その他の手当から送還費用を回収することもできません。

ここにも例外が一つあります。船員が雇用上の義務に重大な違反があったと、国内法令その他の措置 または適用される労働協約に従って判定された場合です。判定が必要だという点が要点です。会社が 自らの判断で賃金から差し引くことは、この例外に入りません。

第三者との契約により船主が費用を回収する権利は別に維持されます(第 4 項)。船員に負担を負わせる ことと、保険その他の契約で精算することは別の問題です。

船主が送還しない場合、船舶が抑留されることがあります

船主が送還の手配をせず、または費用を負担しない場合は、旗国の権限のある機関が代わって送還を 手配します(第 5 項 (a))。旗国もそれを行わない場合は、船員が送還される国または船員の国籍国が 手配し、その費用を旗国から回収できます。そして旗国が負担した費用は船主から回収します (第 5 項 (b))。

第 6 項はここに実効手段を加えています。送還費用を支払った国は、償還が行われるまで当該船主の船舶を 抑留し、または抑留を要請することができます。送還を先延ばしにした結果が、その 1 隻で終わらない ということです。

上限を守るには乗船日と下船予定日を一緒に見る必要があります

ここまでの規定を記録に移すと、必要な値は多くありません。

  • 乗船日。乗船期間を数える起点です
  • 下船予定日。上限に達する前に交代が用意されるかを見る値です
  • 契約満了日。海外で満了すればそれ自体が送還の事由です
  • 旗国が定めた乗船期間の上限。船によって異なることがあります

これらの値が一か所にないと、上限の計算が人の記憶頼みになります。乗船期間は 1 日ずつ増える値なので、 超えたことを後で気づいても戻す方法がありません。交代の準備には後任の選定や交通手段、ビザが伴うため、上限に達する前に着手する必要が あります。

MLC のこれらの規定は旗国の法令で具体化されます。上の引用は MLC, 2006(2022 年改正を含む統合版) から取り、11 か月に関する説明は ILO Compendium of Maritime Labour Instruments 第 5 次改訂版の問答です。実際の上限は旗国の法令と 適用される労働協約で確認してください。

Bellbook は乗船の経過期間と下船予定日を同じ画面で数えます

乗船日から今日までの経過日数と月数を船員ごとに計算し、下船予定日が 30 日以内に入ると交代準備の対象として表示します。予定日を過ぎて乗船中であれば遅延として区別し、予備員の一覧から職級ごとに交代候補を探します。

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