船員紹介手数料の負担主体と三つの例外(MLC規則1.4)
2026-07-11

船員が船を得るために金を払ったなら、その金はどこへ行き、誰が返すべきなのか。MLC, 2006の 規則1.4と基準A1.4は、この問いを金の向きとして扱います。条文を読む軸は一つです。費用が船員の 側へ流れてはならず、流れてよい項目が明示的に三つだけ開かれています。
就業への経路が無償であることが出発点です
- All seafarers shall have access to an efficient, adequate and accountable system for finding employment on board ship without charge to the seafarer.
without charge to the seafarerが規則の本文にあります。紹介機関がうまく回るべきだという要求
ではなく、船員がその経路を使うのに金を払わないことという要求です。後に出てくる基準A1.4が、
この一文を執行できる形に変えます。
船員が負担できるのは三つだけで、査証はそこに入りません
(b) require that no fees or other charges for seafarer recruitment or placement or for providing employment to seafarers are borne directly or indirectly, in whole or in part, by the seafarer, other than the cost of the seafarer obtaining a national statutory medical certificate, the national seafarer’s book and a passport or other similar personal travel documents, not including, however, the cost of visas, which shall be borne by the shipowner; and
禁止と例外と再例外が一文の中に重なっています。ほどくとこうなります。
| 項目 | 負担主体 |
|---|---|
| 募集・職業紹介の手数料、就業あっせんの対価 | 船員の負担は禁止 |
| 国の法定の健康証明書の発給費用 | 船員が負担できる |
| 国の船員手帳の発給費用 | 船員が負担できる |
| 旅券その他これに準ずる個人の旅行書類 | 船員が負担できる |
| 査証の費用 | 船舶所有者の負担 |
査証は旅行書類の例外に入りそうな見た目をしていますが、条文がその場で引き抜きます。
not including, however, the cost of visasです。そして引き抜いたうえで負担主体を指定します。
船舶所有者です。旅券は船員が払い、査証は船舶所有者が払うという分かれ目が一行の中にあります。
直接でも間接でも、全部でも一部でも塞がれます
禁止の範囲を定める語がdirectly or indirectly, in whole or in partです。四つの筋をすべて
閉じてあるのは、抜け道が契約の構造として作られるからです。紹介機関が船員に直接請求せず初月の
賃金から控除させる形、教育費や書類代行費といった別の名で受け取る形、半分だけ受け取る形が、
すべてこの文言の中に入ります。
就業を妨げる名簿も同じ項に入っています
(a) prohibit seafarer recruitment and placement services from using means, mechanisms or lists intended to prevent or deter seafarers from gaining employment for which they are qualified;
手数料の規定のすぐ前にあるのがこの禁止です。資格を備えた船員が就業することを妨げ、または
思いとどまらせようとする手段と仕組みと名簿を禁じます。deterが入っているため、就業を実際に
妨げたことを証明しなくてもかまいません。思いとどまらせる目的であれば掛かります。
紹介機関や船舶所有者が義務を果たさないとき、保険が船員の損失を埋めます
(vi) establish a system of protection, by way of insurance or an equivalent appropriate measure, to compensate seafarers for monetary loss that they may incur as a result of the failure of a recruitment and placement service or the relevant shipowner under the seafarers’ employment agreement to meet its obligations to them, and ensure that seafarers are informed, prior to or in the process of engagement, of their rights under that system.
保護の対象は紹介機関の不履行だけではありません。条文は、紹介機関または当該船舶所有者が 船員の雇用契約上の義務を果たさなかったことで船員に生じた金銭的損失を併せて書いています。 そして船員がこの制度でどのような権利を持つかを、雇入れの前またはその過程で知らせなければ なりません。制度があっても船員が知らなければ、条文が求めたものを満たしません。
同じ号の残りも紹介機関の仕事です。
- 紹介した船員の最新の名簿を維持して権限のある機関の検査に備えます。
- 船員が雇用契約書を署名の前後に検討できるようにします。
- その職務に必要な資格と書類を備えているかを検証します。
- 外国の港で船員が足止めされないよう、船舶所有者にその手段があるかを実行可能な範囲で確かめます。
- 苦情を受け付けて答え、未解決のものを権限のある機関に知らせます。
条約が適用されない国の紹介機関を使うと確認責任が船舶所有者に来ます
- Each Member which has ratified this Convention shall require that shipowners of ships that fly its flag, who use seafarer recruitment and placement services based in countries or territories in which this Convention does not apply, ensure, as far as practicable, that those services meet the requirements of this Standard.
ここで軸が一度変わります。前の条文は紹介機関のある国に紹介機関を規律せよという要求ですが、 第9項はその国が条約を適用しないときに船舶所有者へ確認を求めます。規則1.4の第3項が同じ内容を 規則本文に置いています。
実務でこれが意味することは明確です。送り出し国がどこかによって、会社が確認すべき範囲が 変わります。そして第10項が、この基準のいかなる内容も船舶所有者と旗国の義務を減じるものと 解してはならないと釘を刺します。紹介機関に任せたという事実が免責にならないという意味です。
確認しておくこと
上の引用はMLC, 2006統合版(2022年改正を含む)の印刷20ページと21ページから取りました。 基準A1.4は強制規定ですが、免許や認証の制度の形と監督の仕方は、紹介機関のある国の法令が 定めます。その船が使う紹介機関がどの国にあるか、その国が条約の締約国か、船員が乗船前に 払った金の項目が上の表のどこに入るかが、実際の判断の出発点です。
紹介機関を経て来た船員がその職務に見合う資格と書類を備えているかは、乗船前に確認する必要があります。Bellbookは船員別の証書と有効期限を一画面にまとめ、期限が近いものを併せて表示します。
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