船舶の滅失・沈没時の失業補償の強制範囲と二か月の上限(MLC規則2.6)
2026-07-12

船が沈没したとします。船員は生きて戻りましたが、働いていた船はなくなりました。この人たちの 雇用はどうなり、金はどこまで出るのか。MLC, 2006の規則2.6がこの問いに答えますが、答えの半分は 強制規定にあり、半分は強制ではない指針にあります。この記事はその境目を見ます。
強制規定が求めるのは支払そのものです
- Each Member shall make rules ensuring that, in every case of loss or foundering of any ship, the shipowner shall pay to each seafarer on board an indemnity against unemployment resulting from such loss or foundering.
読む箇所は三つです。第一に、義務の形が旗国に規則を作れというものです。第二に、支払の主体は
船舶所有者です。第三に、対象がeach seafarer on boardです。職位でも契約の形でも分けず、その
船に乗っていた船員全員です。
何に対する補償かも絞られています。indemnity against unemployment、つまり船がなくなったこと
で生じた失業に対する補償です。負傷の補償でも遺失物の補償でもなく、仕事が消えたことへの
補償です。
ここまでが基準A2.6の定めた全部です。いくらをいつまで払うかはこの条文にありません。
金額と期間は強制ではない指針にあります
- The indemnity against unemployment resulting from a ship’s foundering or loss should be paid for the days during which the seafarer remains in fact unemployed at the same rate as the wages payable under the employment agreement, but the total indemnity payable to any one seafarer may be limited to two months’ wages.
算式はここにあります。実際に失業のまま残っている日について雇用契約上の賃金と同じ率で支払い、 総額は二か月分の賃金に制限できます。
ところがこの文の動詞はshouldです。前の条文はshallでした。指針B2.6.1は指針であり、指針は
強制規定ではありません。二か月の上限は条約が定めた限度ではなく、旗国が規則を作るときに参考と
するよう勧められた計算方法です。
in fact unemployedという条件も併せて見る必要があります。支払対象の期間は船がなくなっていた
期間ではなく、その船員が実際に失業している期間です。別の船に配乗されればその時点で計算が
止まります。
指針の重みは第6条が定めます
- The Regulations and the provisions of Part A of the Code are mandatory. The provisions of Part B of the Code are not mandatory.
一行で分けてあります。規則とコードのPart Aは強制であり、Part Bは強制ではありません。ただし 無視してよいという意味ではありません。
In addition, the Member shall give due consideration to implementing its responsibilities in the manner provided for in Part B of the Code.
give due considerationがPart Bの地位です。そのまま従う義務はありませんが考慮はしなければ
ならず、従わなかったのなら何で代えたかが残ります。ですから実務で二か月分という数字を見る
経路は条約ではなく、旗国の法令か団体交渉の合意です。そちらが二か月を採ったのか、より長く
取ったのかを見て初めて実際の金額が出ます。
この補償金は他の請求に代わるものではありません
- The rules referred to in paragraph 1 of this Standard shall be without prejudice to any other rights a seafarer may have under the national law of the Member concerned for losses or injuries arising from a ship’s loss or foundering.
without prejudiceが重なりを許します。失業補償を受け取ったという事実が、同じ事故で生じた
負傷や所持品の損失についての国内法上の請求を妨げません。勘定が一つではなく複数あるという
意味です。
送還も別です。船がなくなったときに船員を家に帰す費用は規則2.5が扱い、ここで扱うのは仕事が 消えたことへの補償です。二つが同じ事故から同時に発生します。
確認しておくこと
上の引用はMLC, 2006統合版(2022年改正を含む)の印刷41ページと6ページから取りました。 基準A2.6は強制規定ですが、金額と期間は指針にあり、指針をどう受け入れたかは旗国の法令が 定めます。その船の旗国が二か月の上限をそのまま置いたか、支払率の基礎をどの賃金項目に取るか、 そして事故時点の乗組員名簿が何で証明されるかが、実際の判断の出発点です。
この補償の対象は事故の時点でその船に乗っていた船員全員です。Bellbookは乗船日と下船日を船員ごとに記録するので、特定の日の乗組員名簿を後からそのまま取り出せます。
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