船員の定義が及ぶ範囲と条約の適用から外れる船舶(MLC第II条)
2026-08-03

修理期間中ずっと船に留まる整備業者の技術者が二人いるとします。会社の所属でもなく、船員手帳も ありません。この二人に船員の雇用契約と休息時間の要件が掛かるのか、それとも訪問者として扱えば よいのかが分かれます。MLC, 2006の第II条がこの問いの向かう先です。
第II条は定義の条文ですが、語の意味だけを書いて終わりません。適用範囲と、内か外かが曖昧なときに 誰が線を引くかが同じ条に入っています。だから第II条は三つの筋で読みます。定義が何を中に入れるか、 何を外に押し出すか、争いが起きたとき誰が決めるかです。
船員の定義には職務の一覧がありません
(f) seafarer means any person who is employed or engaged or works in any capacity on board a ship to which this Convention applies;
定義が人を分けるのに使う条件は二つだけです。その船で働いているか、そしてその船が条約の適用される 船かです。職級も部門も国籍も条件に入っていません。
in any capacityが職務の一覧の代わりを務めます。甲板部でも機関部でも、調理でも接客でも区別
しません。関係の形も三つに開いてあります。雇用された人、乗船の契約を結んだ人、そしてただ働く人
です。
- Except as expressly provided otherwise, this Convention applies to all seafarers.
既定が包含だという意味です。ある範疇を外すには、条約がその場で明示的に外しておかなければ なりません。会社がその人を船員ではないと読んだから外れる、という構造ではありません。
人が船員かどうかは、その船が何かに掛かっています
定義の末尾にa ship to which this Convention appliesが付いています。人の側の判断が船の側の判断に
掛かっているという意味です。だから条約は船も定義します。
(i) ship means a ship other than one which navigates exclusively in inland waters or waters within, or closely adjacent to, sheltered waters or areas where port regulations apply;
定義を除外で書いています。こういうものが船だ、ではなく、こういうものでなければ船だ、です。鍵は
exclusivelyです。内水や遮蔽水域、港則の適用される水域の中だけを航行して初めて外れます。その外
へ出る航海が混じれば、この除外には入りません。
条約の外へ出る船は別々の扉を二つ使います
- Except as expressly provided otherwise, this Convention applies to all ships, whether publicly or privately owned, ordinarily engaged in commercial activities, other than ships engaged in fishing or in similar pursuits and ships of traditional build such as dhows and junks. This Convention does not apply to warships or naval auxiliaries.
ここでも既定は包含です。所有が公でも私でも区別せず、
ordinarily engaged in commercial activitiesという限定が付きます。
| 外れる船 | どこで外れるか |
|---|---|
| 内水と遮蔽水域の中だけを航行する船 | 第1項(i)のshipの定義そのもの |
| 漁ろうまたは類似の活動に従事する船 | 第4項の適用条項 |
dhows and junksのような伝統的構造の船 |
第4項の適用条項 |
| 軍艦と海軍の補助艦 | 第4項の適用条項 |
定義から外れれば、その船に乗った人は船員の定義に届きもしません。船員の定義が船の定義を噛んで いるからです。適用条項から外れるのは、結果が似ていても経路が違います。船ではあるが、条約を適用 しないということです。
争いが起きれば、会社ではなく権限のある機関が決めます
- In the event of doubt as to whether any categories of persons are to be regarded as seafarers for the purpose of this Convention, the question shall be determined by the competent authority in each Member after consultation with the shipowners’ and seafarers’ organizations concerned with this question.
同じ構造が船にももう一度置かれます。
- In the event of doubt as to whether this Convention applies to a ship or particular category of ships, the question shall be determined by the competent authority in each Member after consultation with the shipowners’ and seafarers’ organizations concerned.
判定する主体は二つの条項ともthe competent authorityです。船社でも船長でも船級でもありません。
判定の前に船舶所有者団体および船員団体と協議することになっています。船でその日に決められる性質の
ものではありません。
- Any determinations made by a Member under paragraph 3 or 5 or 6 of this Article shall be communicated to the Director-General of the International Labour Office, who shall notify the Members of the Organization.
先の技術者二人のような範疇をめぐって争いが起きれば、答えは会社の解釈ではなく旗国の判定から出ます。 判定が出ればILOに通報され、他の締約国にも知らされます。判定がなければ定義をそのまま適用すること になり、定義は前に見たとおり広く開いています。
総トン数は船員かどうかではなく、コードの細目の適用を分けます
第II条で総トン数が出てくる場所は船員の定義ではありません。旗国がコードの細目をその船に適用しないと 定めることのできる敷居です。それも、国内法令や団体交渉の合意がその主題を別に扱う範囲までしか 止まりません。
Such a determination may only be made in consultation with the shipowners’ and seafarers’ organizations concerned and may only be made with respect to ships of less than 200 gross tonnage not engaged in international voyages.
二つの条件が一緒に掛かります。200総トン未満でなければならず、国際航海に従事していてはなりません。 敷居の下でも船は船であり、その船で働く人は船員です。止まるのはコードの細目であって、人の地位では ありません。
確認しておくこと
上の引用はMLC, 2006統合版(2022年改正を含む)の第II条から取りました。定義と除外の一覧は条約本文 なので旗国によって変わりません。変わるのは判定です。ある範疇を船員とみるか、特定の船舶に条約を 適用するか、総トン数の敷居の下の船舶にコードの細目をどこまで別に扱うかは、旗国が定めてILOに 通報します。その船の旗国がそうした判定を出しているか、出しているならどの範疇についてのものかが、 実際の判断の出発点です。
船員かどうかは、その人がどの船にいつ上がって何をしたかで分かれます。Bellbookは乗下船の記録に船と職級、乗船日と下船日を人ごとに残し、定員に対する実際の乗船人数も併せて示します。
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