EU指令2009/18/ECの海難安全調査の義務の敷居と通報義務

ISMコード第9章に基づく会社の事故報告と、国による海難安全調査は別の手続です。加盟国領海での事故は、外国籍船でも国の安全調査の対象となる場合があります。
それとは別に国の安全調査が開かれるのでしょうか。開かれるならどの国が開くのでしょうか。EU指令
2009/18/ECがこの問いに答えます。ところが答えは調査の条文から直接は出てきません。
事故の分類によって、安全調査が義務か個別判断かが変わります。通報義務は別に定められており、同じ分類基準には限定されません。
改正と国内実施: 以下はEU 2024/3017の改正内容を含みます。改正指令は2024-12-26に発効し、国内法化期限は2027-06-27です。事故発生時には、関係加盟国で実際に施行されている通報・調査規定を確認してください。
等級を定める語はこの指令ではなくIMOのコードから来ます
(3) the following terms shall be understood in accordance with the definitions contained in the IMO Casualty Investigation Code: (a) ‘marine casualty’; (b) ‘very serious marine casualty’; (c) ‘marine incident’; (d) ‘marine safety investigation’; (e) ‘marine safety investigation authority’; (f) ‘marine safety investigating State’; (g) ‘substantially interested State’; (h) ‘serious injury’;
八つの語の意味を指令は自ら書かず、IMO Casualty Investigation Codeに渡しました。ですから
very serious marine casualtyが何かは指令の本文に出てきません。等級が調査義務を入れたり
切ったりするのに、その定義は別の文書にあります。
指令はそのコードの最新版を指しています(in its up-to-date version)。コードが改正されれば
敷居の位置も一緒に動きます。
(11) ‘fatal injury’ means an injury which is sustained by a person in an accident, and which results in his or her death within 30 days of the date of the accident, if the related information is available.
逆に指令が自ら定義する語もあります。fatal injuryは事故の日から30日以内に死亡した傷害です。
この欄は事故の当日にはまだ空です。等級が後から定まる間も船は航海を続けます。
非常に重大な海難は三つの筋のどれか一つに触れれば調査が開かれます
- Each Member State shall ensure that a safety investigation is carried out by the safety investigation authority referred to in Article 8 after any very serious marine casualty: (a) involving a ship flying its flag, irrespective of the location of the casualty; (b) occurring within its territorial sea and internal waters as defined in UNCLOS, irrespective of the flag of the ship or ships involved in the casualty; or (c) involving a substantial interest of the Member State, irrespective of the location of the casualty and of the flag of the ship or ships involved in the casualty.
文がshall ensureです。加盟国が選べる場所ではありません。三つの筋が問うのは、それぞれ旗国、
場所、利害関係です。
そして各筋が残りの条件を明示的に消しています。(a)は自国を旗国とする船であれば事故の場所を 問いません。(b)は自国の領海および内水で起きたなら旗国を問いません。(c)は実質的な利害関係が あれば場所も旗国も問いません。
そのため一つの事故で複数の加盟国の義務が同時に入ることがあります。先の例では(b)が入ります。 パナマ籍であっても加盟国の領海の中なら、その加盟国に義務が生じます。
等級が一段下がると判断は調査機関に残ります
- In the case of any marine casualty or incident not covered by paragraph 1, 2 or 3, the safety investigation authority shall decide whether to conduct a safety investigation.
前の三項に掛からない海難と海上インシデントは、すべて調査機関が決めます。文が
shall decide whetherです。調査を開かないと決めることもこの条文の中にあります。
- In the case of a fishing vessel of less than 15 metres in length, the safety investigation authority shall without delay and no later than two months after the very serious marine casualty referred to in paragraph 1 of this Article, carry out a preliminary assessment to determine whether to conduct a safety investigation.
漁船にはもう一段が置かれます。長さ15メートル未満なら、非常に重大な海難であっても義務は すぐに調査へ行かず予備評価へ行きます。調査機関は二か月以内に予備評価で調査の可否を定め、 行わないと決めたときは同じ期限内に理由を記録して通報しなければなりません。
第3項がその判断の入力を書き留めています。調査機関は得られた証拠と、調査の結果が将来の事故の 防止につながる可能性とを併せて見ます。証拠が残っているかが調査開始の判断に入ります。
通報義務は調査義務とは別に掛かり、対象がより広いです
A Member State shall require, in the framework of its legal system, that its safety investigation authority be notified without delay, by the responsible authorities or by the parties involved, or by both, of the occurrence of all marine casualties and incidents falling within the scope of this Directive.
通報の対象はall marine casualties and incidentsです。非常に重大な海難に絞っていません。
調査が開かれない事故でも通報は行きます。
通報の主体にはthe parties involvedが入っています。関係当局だけではありません。誰がどう
行うかはその国の法体系が定めます。
時点はwithout delayです。等級の判定を待てとは条文に書かれていません。先の例のように
30日以内の死亡で等級が分かれる事故でも、通報が先に行きます。
調査開始前に証拠を保全します
調査は遅滞なく、遅くとも事故後2か月以内に開始する必要があります。会社や船に証拠整理のための2か月の猶予を与える規定ではありません。
第13条は関係者による証拠保全を加盟国が確保するよう求めています。海図・航海日誌・電子記録・VDRデータなどを保存し、上書きや改変を防ぎ、関係証拠を速やかに収集します。船と会社は適用国内法と調査機関の指示に従い原本を確保し、保全時刻・担当者・引渡し履歴を記録します。単なる任意の参考記録ではありません。
確認しておくこと
上の引用はこの指令の統合版の第3条、第5条、第6条、第7条から取りました。条文が定めるのは義務が 入る敷居と通報の範囲までであり、その先は別の文書と国内法に移ります。
very serious marine casualtyとserious injuryの境目はIMO Casualty Investigation Code に あります。そのコードは決議MSC.255(84)の附属書であり、指令は最新版を指しています。- 通報を誰にどの様式で行うかは加盟国が埋めます。条文は
in the framework of its legal systemとだけ書いています。 - この指令には改正で変わった条文があります。どの版の統合版を見ているかを確認する必要があり ます。
- 会社内部のISMコード第9章の報告は、この指令の通報とは別の手続です。一方を行っても他方は 埋まりません。
引用した原文を直接確認できます
以下は、この記事で扱う文書の公式発行元へのリンクです。本文に記載した版と条項を照合し、EU法令については文書ページの統合版と改正履歴も確認してください。
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通報と調査は後から来ますが、そのときに使う記録は事故のあった日にしか作れません。Bellbookは事故報告を船上で作成し、船長が確認して署名した時点まで残し、同じ日の航海日誌と休息時間の記録を隣に置きます。
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